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建築家 天野 彰 住まいの文化 四季の想いは?

1 800年も前に方丈記は今の日本の生活文化を描いていた?

長く暑い夏が終わり急激に冷えてきました。わが家も秋の装いから一気に冬支度となります。そこに木の家に代表される本来の日本の家、木舞壁(こまいかべ)や漆喰(しっくい)の暖かく優しい組成や素材感が懐かしく思えるのです。このことは近代的建築に住む多くの現代人にとっても求められる感性のようで海外でも空間も食も自然を尊重する和のブームとなっています。そして今、改めて住まいの原点、そこに住む家族の原点、男と女、一人ひとりの原点が見直されてもいるのです。

四季を感じる木造自然素材の家(画:天野彰)
四季を感じる木造自然素材の家(画:天野彰)

日本の住まいや文化を語るとき、どうしても京都を例にしてしまいがちです。地方の古来から伝わる民家などにお住まいの方にはよくお叱りを受けるのですが、京都はその1000年の歴史があり、それも“都市の歴史”であることで、都市の生活文化の変遷を含め、今もそれらが現実に残されているからです。

小さな中庭に四季を
小さな中庭に四季を

しかもその文化は、たとえ極東の島国と言え、古く諸外国との交流があり、異文化も多く取り入れられているのです。しかも不思議なことに、それほどの長い間「衣」「食」「住」の原点が大きく変わっていないのは独特の気候風土と縄文を引き継いだ自然文化に確たる独自性があったからだと思うのです。特に「住」においては農家に住む人も、都市の密集地に住む人も、多雪地帯に住む人も、常夏の沖縄に住む人も、皆それぞれに四季があり、季節感があるのです。遠い以前の先祖たちが築いてきた四季の文化を今も変わらずに大切に守っているのです。まさにそれは日本人のDNAとも言うべき「住の本質」でもあるのです。

マンションにも四季を
マンションにも四季を

それがある日突然!とも言えるほど、僅か4,50年の間にツーバイフォーだ、プレハブだ、外断熱だ、やれ24時間暖房だ、と工業化が進み自然素材から化学素材となり、四季の原点をひっくり返すほどの住まいの革命が起ったのです。住まいの設計をしていますと、このあたりは夕方の西風が気持ちがいいんじゃ!など、古くから暮らしているお年寄りの意見が参考になることが多いのです。

自然素材」だけのわが箱根山荘(上)と京都高山寺石水院の四季アラカルト(下):設計撮影/天野彰
自然素材」だけのわが箱根山荘(上)と京都高山寺石水院の四季アラカルト(下):設計撮影/天野彰

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」

この絶対的真実の絶妙口調で始まる「方丈記」は現代の都市に住む私たちにいろいろと示唆を与えてくれるのです。下鴨神社の禰宜(ねぎ)の曹司として豊かな家に生まれながらも、長明の文脈は実に庶民的で現代にも通じる合理的な生活思想の上に成り立っていることに感動します。なんと800年以上もの時が経った今も、日野山の方丈庵での小宇宙の四季が新鮮に観え聞こえて来るようです。果たして今のわが家に家族に、この四季、とりわけ秋の想い深い風情が感じられるでしょうか?

2 日本はせまいの文化?

今、家を考えるとき、 住まいの原点を見るとき、私たちにどれほど多くのものを教えてくれたことでしょう。

一丈四方、あの四畳半ほどの小さな庵で四季折々や世相、世界いやもっと大宇宙へと誘ってくれるようなのです。実際にその数百年のちに開花する茶の湯で茶室の小宇宙思想は、すでにこの鎌倉の時代に培われていたと言っても過言ではないのです。それにしても鴨長明の生活思想や世界観にあらためて驚かされ、現代の都市の生活に余りにも通じるところが多いことです。

私が住まいの設計やリフォームに使う、「マルチフレックス」と「マルチパーパス」の手法はその自由・多面性・多様性の日本の家の姿で原点なのです。それを長明は見事に観察しているまさしく人間・時間・空間だったのです。

写真・イラスト:購入した狭い中古2LDKをリフォーム:天野彰
購入した狭い中古2LDKをL+DKにリフォーム|A様邸。広がりを感じる空間へ(撮影・画:天野彰)

リフォームの現場で、一戸建てもマンションも、もちろん新築もあらゆる建物も、いったんその要素を丸裸の“スケルトン”にしてワンルームから改めて生活スペースを考え構築する手法なのです。その中で空間は広さではなく、その内容であり、時間と人間の動きを考える。大きな家はその移動と人間関係、経済が大変となる。

スケルトンリフォームで耐震強化と断熱をやり直し、落ち着いた木目調へ 天野彰
スケルトンリフォームで耐震強化と断熱をやり直し、落ち着いた木目調へ|M様邸(撮影:天野彰)

では、と長明のしたように郊外のはるかかなたに引っ越せば家は広くなるものの世間が狭くなる。狭さの三すくみなのですが、結局都市で職を求め、楽しく住みたい現実の生身の家族には、その「狭苦しさ」から「苦」を取り去り「楽」にし、さらに「楽しく」すればいい。私の“狭楽しく住む”の発想となるのです!
これこそが建築の「マルチフレックス」(多重性)と「マルチパーパス」(多目的)の手法で、実際にわがアパートやマンションで試したことですが、これこそ方丈記から私が学んだ感性だったのです。なんと鴨長明は現代の都市での複雑かつ狭い家の生活術、いや哲学を暗示していたと改めて思うのです。

3 伝統とは名ばかりの継承的模倣が多く真の価値観が失われた?

海外の建築家仲間と話す時、よく問われることは、かつての日本の住まいや文学から見る風情や本質はなぜ今の住まいに継承されていないのかです。

欧米ではこの形態的承継がされ装飾の文化が醸成されたのだと言う。アールヌーボウか近代化と、しかもそのことに彼らが辟易としていることを妙に納得したのです。このことは現代の日本に残る古建築や茶室に見る真の継承とは違って、同じく欧米のモダニズムやインテリアに見る模倣のぎこちなさや、ときに軽薄とさえ思える、「和」のかたちがとり入れられ、そこに急激な近代化と欧米スタイルの家や建物となっているのです。

桧の家を代表される日本の家、木舞壁や漆喰の本物の組成、素材感のブームとなり改めて、枘差(ほぞさし)木組みの構造の原点もっと言えば自然との一体化の原点もが見直される時が来たのだと私は悦にいっているのです。そして日本の住まいは高度経済成長のせいで量産化され、さらに都市化が進み防火や冷暖房の対自然の住まいへと様変わりをするのです。

イラスト:枘差(ほぞさし)木組みの構造(図:天野彰)
枘差(ほぞさし)木組みの構造(図:天野彰)

しかし幸いにも戦禍を免れた古都京都には多くの都市型自然宅住宅が残っているのです。町家はなにも京都に行かなくとも戦禍を免れた古い町中に行くとどこでも見られるのです。また街道沿いの商家にはあの卯建(うだつ)と呼ばれる防火壁を発見されるのです。

四国脇町の卯建。左右ウサギの耳のような防火壁(撮影:天野彰)
四国脇町の卯建。左右ウサギの耳のような防火壁(撮影:天野彰)

こうして人が集まり、街に住むことになって開放的なあの和の住まいを密集した都市に適合させるのはなかなか大変なことです。限られた敷地の中で防火のために隣家との間は土壁にし、その壁に沿って風の通る“真の和”の住まいをつくるのです。それこそが私たちが参考にしなければならない町家です。

京都の町家の佇まい(撮影:天野彰)
京都の町家の佇まい(撮影:天野彰)

今ほとんどが都市の住まいとなったと思うのですが、なぜか未だに街の中で野中の一軒家を建てようとしているのです。集合住宅はともかく、どんな狭い敷地でも庭付きの一戸建てにしようとするのです。結果塔状のスレートとべニヤ板の「箱の家」ばかりが林立することになったのです。まさしく、これが「今の住まいになぜ日本の本質が継承されないのか?」の答えなのかも知れません。

4 京都にいって同時に現実の世とのギャップを感じる

その町家には都市住宅の1,000年の歴史とも言うべき工夫と生活の知恵があることに驚くのです。ここの町家のプランニングは路地と路地裏を通り抜ける通り庭を軸に、それに接して植栽や坪庭があり、それらをはさんで次の路地の向こうにまた住ブロック群が整然と続くのです。現代都市計画手法の先端的な住居形態とも言えるのです。しかもその住まいの居住性は、路地と路地裏としか外部に接していないこの密集住宅の町家は、多湿なわが国の気候と、京都盆地の独特の暑さの中で、さぞかし風の通り難い住みにくそうな家と思いきや、無風状態の中でもなんと家の中を中庭に向かって微かに風が通るのです。
これを平面図と断面図で詳しく検証してみると、なんと家そのものが中庭を軸にある工夫がなされて?いることが分かるのです。

イラスト:京都町家の平面図と断面図、まるで巨大な換気扇(画:天野彰)
京都町家の平面図と断面図、まるで巨大な換気扇(画:天野彰)

その町家の断面とは中庭の前後の瓦屋根が灼熱の太陽で熱せられて上昇気流を起こしていることが分かります。こうしてこの中庭の空気は負圧となり、さらに屋根の上昇気流によって吸い上げられるように昇って室内に風が通るのです。しかもその風はなんと表と裏の両路地から中庭に向かって流れる!のです。夕暮れ時に路地に打ち水をするとさらに蒸発潜熱で冷えた空気が室内に呼び込まれ過ごしやすくなるのです。家そのものが“巨大な換気扇”になっていることが分かるのです。これは実際に模型をつくって屋根を黒のモザイクタイルなどを張って瓦屋根に見たて、白熱灯で温めると、なるほど室内の線香の煙がすべて中庭に向かって一斉に流れ始めるのです。

写真:京都町家の模型(天野彰)
京都町家の模型(天野彰)

一見、閉鎖的に見える京の町家は、夏暑く冬寒い盆地の京都の気候と地形を生かした科学的な工夫と、都市の防火対策もなされたセルフディフェンス・ハウスなのです。

5 雨露を凌ぎ風を呼び込む「家」

イラスト:傘の家(画:天野彰)
傘の家(画:天野彰)

現代こそ高気密外断熱の家となり窓は小さくしかも箱の家となっているのですが、これは明治に始まりさらには戦後の西欧式壁の家となり、造りやすい寛敏なベニヤの家となっているのです。その間わずか100年にも満たない欧米式の家で、柱と梁と屋根だけの伝統的軸組の家は貴重な特別な家となっているのです。今この軸組の桧(ひのき)の家がなぜか西欧や急激に経済成長したアジアの富裕層に大人気となっているのです。これこそ本質的な家の価値が世界的に見直されて来たのだと私は悦にいっているのです。

今改めてなぜ気候風土と真っ向から異なる西欧式の家が今のわが国の家の主流となったのかを考えてまとめてみますと、大いに官僚主義による経済、金融そして税制によることが分かりますが、戦後の“取りあえず”の掘立小屋から公団住宅や文化住宅など、圧倒的優位のGHQ思想と、急激に始まった都市集中の無策な国土政策によるものです。市民はやはり“取り合えず”の「持ち家思想」となり、分譲住宅は高層化され結果、区分所有なる訳の分からない権利に縛られ、今日に至っているのです。

今、私たちは改めて変わらぬ気候風土の中で日本の家の思想と文化を取り戻す義務があるのです。これこそ経済成長を遂げた大人たちの本当のレガシーと思うのです。極寒多湿の白川郷の高断熱高通気の何百年も持つ集合住宅の合掌造りの知恵、ワン・スパンのユニバーサル・プラン方丈庵。そして驚くべき千年以上も後の世に伝える収蔵庫正倉院の知恵。

熊さん八っあんの江戸裏長屋(画:天野彰)
熊さん八っあんの江戸裏長屋(画:天野彰)
写真:高断熱の藁の屋根と高通気の妻側障子(天野彰)
高断熱の藁の屋根と高通気の妻側障子(天野彰)

今私たち建築家は「桧の家」などと口や形で形骸化はするものの、果たしていまだ本質を具現化できているのでしょうか?改めて食う寝るところ棲むところの熊さん八さんの江戸の裏長屋四畳半のホンネの住文化と都市文化の偉大さが懐かしいのです。

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建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

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