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収納は難しい?やっぱり収納は苦手?!
1 大問題の収納
人生が長くなればなるほど物が増え、所狭しと、物だらけとなります。しかも老いると収納に物をしまい込むことが苦手になるのです。いくら収納を設けてもいちいち所定の場所には入れ込まなくなります。
現代の家は「物や家具のための家」
昔からわが国の伝統的生活文化は「設え」と「片付け」です。設えは場と季節と歴史を創り、片づけは仕舞うことです。仕分けて舞う美なのです。それが収めて納める収納なのです。そのための納戸や蔵は家の外に有って生活スペースにはないのです。
しかし現代の狭苦しい都市での生活では物の多さは生活スペースを圧迫しさらに狭苦しくなります。そのコストは都市圏では1坪(畳2枚)あたり2~3百万、家賃で1~2万/月もするのです。これは畳1枚にごろ寝をするだけで150万円、押入れ1つも150万円、家賃は月1万円!と、一般的な家で物や家具、電気製品が住まいの3分の1を占めると言われているのです。3千万円のマンションでは、およそ1千万円を物のために払っているという勘定になるのです。
これでは「物や家具のための家」で、人の暮らし家とは言えません。物や家具のためにいったい何畳使っているのかを考えるのです。すると不要なものは思い切って捨て、残った物や家具を壁面に積み上げてしまうのです。これこそ「断捨離」と「立体収納」です。
立体収納で狭苦しいリビングから広々した狭楽しいリビングへ
狭楽しいと言う言葉はこの物の多さと生活コストから出た言葉です。物に溢れる家を「立体収納」で解決したのです。当時は聞き慣れない収納ですが、なんてことはありません。あの図書館の書架です。洋室にあクローゼットです。しかし収納家具では隙間があり地震などで転び、また家具で溢れるのです。これらを切って揃えて積み上げ固定するのです。
イラスト リビングにあるものすべてを積み上げ固定する(画:天野彰)
すると今まで足の踏み場もなかったリビングはびっくりするほど広くなり楽しく暮らせるようになるのです。狭く、狭苦しい家でも苦を取り去れば楽になり、さらに楽しくなるのです。そう狭苦しいの反対は狭楽しいのです。
家具の積み上げで広いスペースが生まれ家事が楽しくなる(画:天野彰)
収納スペースの量ではなく、使い勝手をとことん工夫する
ではその収納方法とはどうでしょう?まずは「断捨離」ですが、そうは簡単に物は無くなりません。そこで、物をすべて出して、そこに広げて眺め、必要なものだけを拾う。そう。捨てるのではなく拾うのです。それにランクを付け仕分するのです。さて入れる場所ですが、収納を多くは間違いです。扉が多すぎて、どこに入れたのか分からなくなりパタパタと開けて探します。特に屋根裏や床下は入れたらお終いで、しかもいずれ老いて使えなくなり「死蔵」となるのです。
そこで物と生活行動を一緒にするのです。そうあの「おーい紙ーッ」で、起きたら着るもの。出掛けて帰ったら玄関クローゼットに収め、家の中に持ち込まない。取り出しやすいものは目の前に、老いて楽なゴールデン収納で、一年に一度しか使わないひな人形などは白酒セットと一緒にクローゼットの高い棚に、しかも扉を付けず一目瞭然にするのです。
あの中途半端に深い押入れがありますが、布団を投げ込み押し込むもので、現代では不要の長物で、物を押し込んだら二度と出てきません。中段をはずし、奥に奥行き30センチほどの棚にし、そこに帽子やバッグさらによそ行きの靴などを入れます。その前にハンガーパイプを付け、洋服ダンスにします。一番下に二つに仕切られた引き出しにし、前後季節ごとの用品を収納。
アパート住まいなどでは本棚を置き前にパイプ、下段はプラスチックの引き出し収納などを押し込むのです。
押入れのリフォームで多機能収納に(画:天野彰)
しかしあくまでも「シュ-ノ-・収納と細かく仕切った収納ではなく、現実の暮らしに本当に役立つのはクローゼットなどの片隅の一時置き場の「ポケット収納」です。ここに頂き物や雑誌あるいは古新聞などを置くのです。
2 時預かりの収納で、時間のある時に片付ける
家を建てる時どなたも、あの「収納、シューノ-」と、住まいのあちこちに多くの収納を設けます。結局一体どの収納に入れたのか分からなくなり結局また買い込み物が増えます。第一、どの収納に入れるのかを考えるのも忙しい日常の中ではもどかしいものです。結局その場やテーブルの上に積まれてしまうのです。
テーブルの上の書類や資料の山。ここでご飯も食べる? 写真 天野彰
人の洋服にはあちこちに多くポケットがあります。あり過ぎていざと言う時、あちこちを手探りで探してしまいます。結局、形の違うペンさしなどとは別に大きめのポケットの方が物を探しやすいのです。住まいの収納も同じで、あちこちに小分けしてある収納より、小部屋の中に剥き出しの棚やラックなどを置き、そこにランダムに置いたり、物を掛けたりします。とりあえずの一時預かり収納です。これこそ大きめの「ポケット」です。
イラスト:テーブルの後ろに取りあえずの剥き出しなんでも棚を(画:天野彰)
所定の置き場を決めて、溢れてきたら片付ける
「ポケット収納」は季節の頂き物や新聞雑誌、段ボールなどを無造作に置き、時間があるときにゆっくり整理し、所定の位置にしまったり、廃品回収の日などにさっと出すのです。これが生活と言うもので、毎日物のために細かく神経質に整理するなど人生の無駄遣いとも言えるのです。私の取りあえずのポケット収納は大きめの食卓テーブルです。ここで原稿を書いたり、食事をしたりもしますが、物が溢れてきたら片づけるのです。楽で原稿も進むのですが、剥き出し過ぎて煩雑で今にも本が崩れそうで家族にも嫌われます。ダメですねぇ。
納戸の片隅の何でも収納棚例(設計:天野彰)
実際にポッケット収納」はどうつくればいいのでしょう?
ご参考までに、雑誌「クロワッサン」今月号にて、この狭さに挑戦!捨てるか?収納するか?(筆者)が紹介されています。合わせてご覧あれば幸いです。
3 収納は、玄関とキッチン回りがポイント
家の中にポケット収納とは物との合理的な共存法なのですが、なんとわが国の住まいは古来これを伝統的に実践していたのです。季節の模様替えや行事ごとに出して使い、またそれらを仕舞うのです。
すっきりした生活を守る収納の第一のコツは、まず家の中に持ち込まないことです。庭先の納屋や蔵です。現代の玄関先のシューズ・クロ-ゼットであり、台所のキッチンパントリーpantryや、家事のためのユーティリティー utility roomだったのです。
写真 玄関のシューズ・クローゼット(設計 天野彰)
あの柱と屋根だけの開放的な家の中にも厳重な壁の部屋があったのです。それが納戸であり塗籠なのです。ここだけは木舞壁で塗って固め塗籠なのです。これが住まいの中で大切な物をしまう納戸であり、そこが主人の寝床でもあったのです。現代の寝室にあるウォーキングクロ-ゼットで大切なものなどをしまうのです。
夫婦寝室のウォーキング・クローゼット(画 設計 天野彰)
住まいの収納は季節ごとに仕舞う=ポケット収納
ところでしまうとは仕舞うなんと「仕」分けて「舞う」、なんと美しい言葉なのでしょう。私は住まうとは住んで美しく「舞う」すなわち「住舞う」ことだとも解釈しているのです。あの納戸、名こそ違い現代のウォークインクロゼットであり、季節ごとに仕「舞う」のです。これが住まいの「ポケット収納」です。
4 間仕切りをすべて本棚にすると7000冊の本が収納できる?
家づくりで一番の関心事と、悩みは収納です。家づくりやリフォームでは1にも収納、収納となるのですが、今住む3LDKのマンションに、空間を少しも狭めずに7000冊もの単行本が収納できるのです。これは小さな書店並です。
間仕切りを本棚に!
その仕組みはイラストのようにすべての間仕切りをすべて奥行き10cmほどの書棚にするのです。なるほど一般的なマンションでは天井の高さ一杯まで10段ほどの書棚となり、1m幅の壁に1段70冊として700冊で、壊せそうな間仕切り壁は10mとして、7000冊となるのです。
イラスト 3LDKの間仕切り壁の中に7000冊の本が(画:天野彰)
なるほど今までただ空気だけだった間仕切り壁の中が収納となるのです。この収納はすべて本棚にするのではなく奥行きを10~20cmほど足して他の収納棚にしたり、さらに40cmほど足せばクロゼットにもなるのです。
押入れの奥と手前で収納できるスペースに
この奥行き10cmの書棚を利用して厚さ10cmの書斎あの投票所の机の様な、馬車馬お父さんの「オヤジデスク」が私の特許なのです!?
イラスト 元祖、壁の中の厚さ10cmの「オヤジデスク」(画 天野彰)
この考えで使い難い押入れをそのまま多機能高機能収納にするのです。まず使いにくい中棚を取り外し、その奥に奥行き30cmほどの棚を設けます。その前にハンガーパイプを渡して洋タンスにするのです。奥の棚は帽子やバッグ、余所行きの履物など小物を置き、前に掛けたコートなどを掻き分けながら使うのです。
下段は奥行きのままの深い引き出しにして前後に中仕切りをし、夏冬の収納に分けるのです。この手法はアパートでもできるのです。押し入れの中段はそのままに、古い本棚などを切って奥に押し込み、その前にハンガーパイプ(突っ張り棒など)を付け、下は引き出し式のプラケースを置くのです。まさしく簡易な収納ながら大容量となるのです。
イラスト 押入れのリフォームで多機能収納に(画:天野彰)
5 老いると言うこととは一体何でしょう?
ちょっとしたことでつまずいたりよろけたりすることです。それがために運悪くそのまま寝たきりになったり、増えた高層住宅で快適な家に長く閉じこもることで体力や知力を失いそのまま痴ほう症になるケースも増えているとも言われています。もちろんこれは家や家族だけの問題ではなく、高齢者が活動できる社会環境の整備にも起因するとも言われます。
建築的に住まいを見ると、確かに機能的で快適な住まいの割に事故が増えたり、楽過ぎて動かなくなったりすることで活力を失うのではないかと思われる現象も増えています。
住まいの中を活動できる空間へ
こうしたことから住まいはバリアフリーに加えてリハビリ効果?も必要とされるのです。かと言って、住まいの中をジムのようにするのではなく、自然に活動できる間取りや立体的なプランニングが重要なのです。収納も立体的な壁面収納にして全体を見通し良くし、常に見える収納にし出しやすい収納にするのです。部屋によっては棚に扉を付けず、どこに物を置いたか仕舞ったのかを覚え安くすることです。テレビなどのゴールデンアワーの番組に例え、よく見え、手が届き使いやすい「ゴールデン収納」(イラスト)にするのです。これによって脚立から落ちたり、無理な姿勢で腰を痛めたりすることを防ぐのです。
ゴールデン収納見通しを良くし、姿勢を考える(画:天野彰)
九州豪雨で被災された方々、今も避難されておられる多くの方々に心よりお見舞いを申し上げます。
6 物を置くための家から、人が主役の家へ
かつてわが国の家はもともと柱と屋根だけで、収納の造りなどなく江戸の裏長屋、西欧の家も壁だけで家具が主力で、やがて屋敷には「納戸(塗り籠め)」や「蔵」、庶民の家には「押入れ」ができ、さらに今のクロゼットなどの造りつけの「収納」となるのです。
何度も紹介する江戸の裏長屋の生活(画:天野彰)
そこで今改めて原点に戻って、家は人が主役と考えるのです。
つまり人が生きて行くために何が必要かを考えるのです。まさしく手の届くところに、必要な物の「置き場」です。
物を買わない、持ち込まない生活
これはこれからの超高齢化社会での生活で必要な最低限の物と考えるのです。その段階ではすでに「断捨離」や「終活」などの余裕など無いのです。物に左右され、収納で神経質になるなど、人生がもったいないと考えるのです!今からできるだけ物を買わない、物を持ち込まない、生活を鍛錬をする必要があるのかも知れません。
今家の中にある必要ではないものを極力追い出し、さらに外から家の中に物を持ち込まないことです。まさしく「住まいの外と内の関所」をつくるのです。それこそ玄関でストップ!の玄関クロゼットと台所の勝手口のパントリーです。かく言いながら、わが家のあり様を見ると気が遠くなりそうですが。
ここでストップの玄関クロゼット(設計 天野彰)
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