川道 恵子 一級建築士/宅地建物取引士/整理収納アドバイザー一級
(株)住まいと街設計事務所 代表取締役 住宅メーカー設計部にて戸建住宅の設計業務、デベロッパーにてマンション等の企画・監理業務を経て、設計事務所において不動産開発業務に携わる。その豊富な経験と知識から土地の活かし方、住宅の間取り提案等、幅広い実績も多数。
執筆・監修:川道 恵子
更新日:2024年3月11日
土地も建築費も高騰している昨今ですが、家を建てる夢はあきらめたくないものです。
そこで、できるだけコンパクトな土地を取得して効率のいい家を考えることが夢を実現するためのひとつの近道。建築面積10坪の家で夢をかなえるためのポイントをお伝えします。
1坪は畳2枚分ですので、10坪は畳20枚分です。
10坪の家をまずは机上の計算で考えてみましょう。
水廻りを仮に、浴室2畳・洗面脱衣室1.5畳・トイレ1畳とすると計4.5畳。玄関を2.5畳として合計7畳になります。玄関と水廻りを20畳から除くと残り13畳を居室や収納スペースに充てることができます。もちろん、廊下の必要性、土地の形状、建築基準法などがありますので、数字上だけでは家は建ちませんが、10坪でこれくらいのスペースが取れる可能性が充分あるということです。2階建、3階建にすれば、階段に必要な面積も生じますが、家族と住む家として充分成り立つのが10坪の家なのです。
10坪の家を建てられる土地の広さは、その場所に定められた、建ぺい率や建物の耐火性能によって異なります。建ぺい率が80%の場合、10坪を建てるには約12.5坪以上の敷地面積が必要です。
商業地域・近隣商業地域だと、建ぺい率は80%が多く、さらに建物を耐火仕様にすると緩和がありますので、土地をより有効的に使えます。その場合は、建築コストが一般的な木造に比べて割高になります。
住居系の用途地域は、建ぺい率が商業系に比べて低いので、それだけ広い土地が必要になります。例えば、60%の地域であれば約16.7坪以上の敷地が必要です。角地の土地の場合は、建ぺい率は基本的に10%緩和されるので、それだけ必要な土地面積が少なくすみます。角地は土地代が割高になりますが、必要な敷地面積は少なくなるというメリットがあるのです。
また、住居系地域でも、準防火地域では火災に強い準耐火以上の仕様の建物にすると角地でなくても建ぺい率が10%緩和されます。
このように「建ぺい率」は10坪の建物にとって影響が大きいので、土地を探す際はぜひ注意しましょう。また、前面道路が狭いと建物の高さに制約が生じたり、容積率が指定容積率よりも低くなります。
ただし土地の立地条件、例えば地盤の強弱、前面道路や敷地までのアクセス道路の広さや交通量などでも大きく異なります。地盤が弱ければ杭や地盤改良のコストがかかります。前面道路などが狭いと資材の搬出入の車両に制限が生じて運搬費が割高になります。また、前述の通り、建物を火災に強い仕様にする必要がある場合は、準耐火仕様・耐火仕様の建材になるため価格もアップするので注意しましょう。
10坪の家で必要な床面積を確保するにはに、2階建て・3階建など当然階段が必要になります。
一般的な3~4人のファミリーが最適でしょう。
しかしご高齢や体の不自由な家族や小さい子供だと、その上下移動は負担が大きく危険もともないます。ホームエレベータを設置するほど面積に余裕はないので、特に3階建にする場合は、1階2階に不可欠な水廻りを設け、動線をシンプルにして目が届きやすくするなど、家族の体力と安全性を考慮した間取りにするとよいでしょう
一方、シングルで暮らす場合は10坪の平屋で充分かも。
高齢になっても昇り降りの心配がなく、長く住むことを前提にできるでしょう。車を置くガレージスペースを設けにくい敷地の場合は、車が必須の家族だと、すぐ近くに駐車場を確保できるかも注意ポイントです。
スペースを分けたい時は、可動間仕切りの家具や間仕切り扉(上吊り)などを活用し、区切る必要がないシーンでは明け放しにして広々と使えます。
壁や天井を暗い色や目立つ柄にすると狭く感じます。一面だけアクセントクロスなどで遠近感を出すのも◎。鏡は映り込みで奥行を出せるので効果大。
周辺環境にもよりますが、明るい自然光や、空が見えたりすると開放感が増します。窓枠の外と内との遠近感、距離感も活かしましょう。
天井が低いと圧迫感が…。可能な範囲を一部だけでも高くしたり、吹き抜けにすると効果アップ。ただし床面積とのバランスが大切。床面積の割に天井だけ高いと井戸の底のような逆効果になるので注意しましょう。
置き家具は、奥行や高さなどが揃わないとガチャガチャした感じになり、狭く感じる原因に。造り付けにして扉が揃っているとすっきりして部屋が広く感じられます。
限られた面積で廊下が長いと肝心な居室が小さくなってしまいます。動線は限りなく短くすることで暮らしの効率もアップします。
居室をコンパクトに配置すると家族同士でもプライバシーが気になります。部屋の間に収納を設けたり、階を別にするなど一定の独立性を確保しましょう。
敷地いっぱいに建てるぶん隣家との距離も近いです。お隣りと窓の位置が重ならないように、また侵入者を防ぐために窓の高さも注意しましょう。道路からの距離が近い場合は、人の視線を遮るような工夫も忘れずに。
ただ面積を確保するのではなく、幅・奥行・高さによって効率よく収納できるかが決まります。隙間も無駄にせず活用すると、家のすっきり度がアップ。ニッチなどもちょっとした置き場に役立ちます。
室外機の前に塀が立ちはだかっていると故障や低効率の原因に。隣家との位置関係によっては音や熱風でクレームにも…。エアコンの室内機と室外機の位置とその配管も間取りと一緒に検討しましょう。
間取りは敷地の面積だけでなく土地の形状や道路条件、法規制など様々な制約のなかで成立させなければなりません。でも、工夫次第で効率的で暮らしやすい空間にもなり得ます。10坪の家の場合は特に、無駄のない間取りの工夫がとても重要です。
階段移動が長くなるので、家族が集まるLDKを2階に設け、できるだけ動線を短くなるようにしましょう。LDKが2階だと、1階よりも陽当たり、風通しがよくなるというメリットも。陽当たりのよくない1階に浴室や寝室を設け、もっとも陽当たりの良い3階を子ども部屋に。
1階で洗濯して、階段で3階ベランダまで運ぶのは結構大変。2階で洗濯して3階で干すか、洗濯から干すを2階で完結させる動線に。
1階で保管できると必要に応じて上階に運べます。1階に収納スペースがないと、いっぺんに物を上に運ぶため重くて生活の快適性に影響も…。
1ヶ所は1階に設けておけば、家族が脚を怪我して階段を昇れないという場合にも1階で寝起きが可能です。
水廻りが各階に分かれる場合も、メンテナンスや水漏れのことを考え、位置をできるだけ上下で合わせ、パイプシャフトの位置を一箇所に集約しましょう。排水音は意外と響くので遮音対策をしっかりして、できるだけ寝室にパイプシャフトが通らないように注意。
店舗と居住スペース間の動線をどうするのか、完全に独立していてよいか、営業中も居住スペースと行き来できる方がよいか、業態や経営方針、家族の状況、暮らし方などから考えて、店舗経営と日常生活が両立できるような間取りを考えることが大切です。
1階にも居住スペースを設けられるならトイレは必須。店舗と行き来しやすく便利です。その場合でも、もう1か所、2階か3階にトイレを設けましょう。
二方道路であれば、店舗と別に玄関を設けやすいですが、一面道路の場合、間口が狭いと独立した玄関を設けられないかも…。玄関のみ1階間口の端に設け、入ってすぐに階段で2階に上がるようにします。
1階部分は道路まで迫って建てるのではなく、少し壁面をセットバックして、車の荷下ろしや駐輪スペースを確保しましょう。路上の駐車、駐輪は、ご近隣との関係に影響を与えるので注意。
水廻りを1階か2階のどちらかに集中し、階段の面積を除くとLDKや収納を含めた居室は各階11畳もしくは18畳でまとめる計算になります。
ポイントは、廊下の面積を少なくできる階段の配置です。リビング階段は廊下を省略できますし、階段下も収納やトイレなどに活用できるのでおすすめ。
1階に日当たりが不足する場合のスタイル。来客は基本2階に。
1階は共用、2階はプライベート空間として公私で階を分けられます。
使用頻度の低い物の収納場所に最適。
キッチン、洗濯機、洗面化粧台の配置によっては動線のためだけ用スペースができがち。人数が少ない場合はトイレを洗面室内に配置したり、洗濯機をキッチン側に置くなどして、移動のためだけのスペースを減らすという手段に。
中庭に面して窓を設けると、周囲からの視線を気にすることなく開放感を得られます。隣地の建物が境界に迫っている場合は、中庭にした方が部屋に採光も取りやすいです。
マンションで10坪は、1LDKでひとり暮らし用のコンパクトマンションのプランとして定着していますので、戸建てでも同様、1LDKの平屋が充分成立します。階段もなく、シングルにとって効率の良い間取りになるでしょう。
家具をいろいろ置かずに居室部分がすっきりして、より広く感じます。
この場合、寝室部分の面積は必要最小限でOK。間仕切り扉は、上吊り引戸タイプにして、床に敷居や戸車の溝をなくすことで、つまづき防止にもなりますし、お掃除もしやすくなります。
ダイニングテーブルを置く面積を抑えられます。ひとりでゆったり食事もしやすいですね。
できれば回遊動線だとさらに楽になります。
10坪でもいろんな間取りの可能性がありますが、計画を進めるにあたって考えておくべきポイントがあります。
効率のよい間取りは、暮らし方と関係します。
家族の年齢や構成、将来の変化の予測。日常生活の習慣、傾向性などを書き出してみましょう。ご自身では気づかないこともあるので、第三者に聞いてもらって整理するのもよいでしょう。
限られた面積に必要な収納スペースを確保するために、物の持ち方を見直してみましょう。どうしても使う物にどれくらいのスペースが必要か、どのように収納するかも考えておきましょう。1ヶ所集中収納と個別収納など、専門家にアドバイスを受けるのもお勧め。
土地と建物が密接に関係するのが10坪住宅です。土地の条件次第で、可能なこと、不可能なこと、また住む人の希望や条件によっても、ふさわしい土地や環境は異なります。気にいった土地でも希望の間取りができなかったり、迷っているうちに他に買い手が決まってしまったり、と、まわり道したりチャンスを逃すことになりかねません。
見極めるには専門的な知識が必要になりますので、土地を検討する段階から提案力のある住宅会社に相談するのが安心です。
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川道 恵子 一級建築士/宅地建物取引士/整理収納アドバイザー一級
(株)住まいと街設計事務所 代表取締役 住宅メーカー設計部にて戸建住宅の設計業務、デベロッパーにてマンション等の企画・監理業務を経て、設計事務所において不動産開発業務に携わる。その豊富な経験と知識から土地の活かし方、住宅の間取り提案等、幅広い実績も多数。