早坂淳一 保有資格:AFP(日本FP協会認定)/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/一般社団法人生命保険協会認定/シニア・ライフ・コンサルタント/
工務店支援プロジェクトに従事したのち、工務店にて営業を経験し、現在はハウスネットギャラリーを運営する第三者機関ネクスト・アイズ(株)にて、住宅コンサルタントとして活躍中。
執筆・監修:ハウスネットギャラリー事務局 早坂淳一
更新日:2024年9月7日
バリアフリー住宅とは、「高齢者の介護のため」「体に障害がある人のため」というイメージが強いですよね。
しかし、家は自分の代だけではなく子供に引き継がれていくことも多く、何十年も今後住むことになるものです。いま家族に高齢者や障がいを持っている方がいなくても、新築や建替えの際にバリアフリーを意識して設備や間取りを整えておくことで、誰もが暮らしやすい家になるでしょう。
ハウスネットギャラリーでは、施工会社が実際に建てた【バリアフリー住宅】の事例から、間取りのコツや建てる際のポイントやバリアフリーリフォームの費用感なども簡単にご紹介していきます。
長年住む家、歳をとってくると至る部分に不満が出てくるのも事実です。たとえば足腰が弱ると、お風呂の浴槽を跨ぐのも一苦労。トイレも座ったり立ったりという動作に体が堪えることもあります。ちょっとした段差にもつまづくようになることも。
また歳とは関係なく若い方でも、仕事で疲れていたり病気になったときなどは足元が不安になることもあります。小さなお子様にとっても少しの段差や階段で思わぬケガをすることも考えられます。また介護のために、玄関や廊下など全てのスペースを広く設計するバリアフリー住宅では、どの世代でも暮らしやすい空間になることは間違いありません。
そんな全世代が安心して暮らせる「バリアフリー住宅」で、気を付けるべきポイントを簡単にまとめていきます。
つまづきやすく、車いすも通りにくい段差は、バリアフリーの最大のポイントといえます。小さな段差のほうが、目視しにくいことからより危険です。介護者の負担も大きくなるのでフラットな空間づくりを心がけましょう。
段差の解消法として、床を上げたり、段差解消用の部材を設置するなどがあります。どうしても段差をなくせない場合は、段差のある箇所の色を替えて、わかりやすくすることも重要。また足元を照らすフットランプも効果的です。
移動の際の転倒防止に、手すりの設置は有効です。
主な設置場所としては玄関やトイレ、浴室、廊下など。どうしても段差が生じてしまう場所には、室内用のスロープなどを設置すると安心です。
ヒートショックの予防もバリアフリー住宅では必要不可欠。建物の中の温度差は、住まいの快適さを失うばかりではなく、結露やカビ・ダニの発生原因ともなります。冷暖房や換気設備を適切に配置し、部屋ごとや廊下との湿度差を少なくするためにも住宅の気密性・断熱性を高くすることが重要となります。
上記であげたようなポイントを押さえて、「バリアフリー住宅」を建てることで、どの世代でも安心して暮らせる住まいになることは想像に難くありません。
続いては、バリアフリー住宅を計画される方で特に悩まれる「間取り」のポイントをご紹介します。(こちらから)
バリアフリー住宅の間取りでは、要介護者とそれ以外の家族の意見を良く検討することが必要です。理想は「近すぎず、離れ過ぎず」。そんな最適なプランをご家族で見つけるためのポイントをここではご紹介していきましょう。
まず、要介護者の居室で配慮すべき点は、1階に居室は配置すること。やはり足腰の問題もあることからワンフロアで全ての用が終えられるように工夫することが大切です。
玄関・リビング・ダイニング・キッチン・寝室(要介護者の居室)・トイレ・洗面・脱衣室・浴室は、同じ階にあることが理想的。
特に、寝室とトイレはすぐ近くに設けること。高齢になるとトイレの使用頻度も高くなるので、部屋のすぐ近くにトイレを設置することはマストでしょう。
居室の位置については、最も悩むポイントの1つです。
LDKと要介護者の居室を繋げることで、家族とのコミュニケーションが図りやすいというメリットがあります。また、何かあった時も直ぐに気づくことができるという点もメリットです。しかし、要介助者が寝たきり状態の場合などは、トイレで排泄できなくなることも考えられるため、近すぎれば双方でストレスに感じてしまうことも考慮する必要がります。
どうするかは家族できちんと話合い、納得いく位置を見つけることが大切です。
何かあった時にも直ぐ知らせてもらえるように呼び出しブザーなども利用すると便利でしょう。
多少の段差でも高齢者はケガをする恐れがあります。転倒などして骨折により、入院ともなれば、それをきっかけに体力が衰えることや、認知症になるなどのリスクが発生します。
上記の原因をつくらないためにも、家の中は、段差を設けないよう注意しましょう。具体的な段差をなくすポイントについては、この後取り上げていきます。
バリアフリーというと、段差を設けないことなどを重視しますが、高齢になると火の不始末による火災が多くなります。その火災の不安を排除することも立派なバリアフリー住宅のポイントの1つです。
オール電化住宅にすると、調理・空調・電気・給湯などを全て電気で賄ってくれるため、火災の原因である火を使うことはありません。
オール電化では火を使わないだけではなく、お湯や暖房なども通常より安く利用できます。給湯は「エコキュート」を利用し、太陽光発電などでお湯を沸かしそれを日中に使います。さらに暖房もその「エコキュート」の熱を利用し床暖房などで使われます。
もちろん、オール電化にしたとしても効率よく暖房が利くように、家そのもののつくりは非常に重要となります。気密・断熱に注意を向けて、より快適な空間で生活できるような配慮も忘れずに。
現在では、地球環境にも優しい暮らしの実現に向け「住宅の省エネルギー化」が大きな課題となっています。それが「ZEH・ゼッチ(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」と呼ばれるもの。ZEHとは、高断熱な性能の住宅をベースに高効率機器やHEMSによる「省エネ」、太陽光発電などによる「創エネ」を組み合わせることで、住まいの年間で利用するエネルギー消費量がおおむねゼロになる住まいのこと。
オール電化よりさらに進化した「ZEH」。家づくりの際はぜひ注目してみてください。
続いては、バリアフリー住宅の間取りについて、さらに詳細な部分別のポイントをご紹介しましょう。まずは浴室から。(こちらから)
バリアフリー住宅は、まず最初に浴室について検討することをおすすめします。導入する設備によって大きく金額が異なるため、家づくりの総額にも響いてきます。意外に知られていない事ですが、お風呂のバリアフリーは費用的に一番出費がかさむ事は覚えておきましょう。
例えば、寝たきりの介護者がいる場合、リフトの導入を検討すると数百万という費用がかかることもあります。
自宅での入浴で介護者が必要な場合、数年程度しか使わない設備に多額の費用を掛けるなら、その費用を施設入居金の一部にするといった割り切りも重要な視点です。
ポイントは、出入口の広さと段差。出入口は人が2人通れるように開口を大きくとることが基本。介護のことも考え65cm以上の幅を設けておくように心がけましょう。そのために、ドアは通常の折り戸よりスライド式にすることで開口部を広く設けることができます。また、脱衣所と浴室の段差はなくすように注意しましょう。
浴槽と洗い場の両方に設置しておくのが理想的です。転倒防止になるので、よく検討して手すりは設置しましょう。また、手すりはI字型ではなくL字型がおすすめします。L字型は横と縦がひとつになった形のため、立ち上がりの動作がしやすいことが特徴。
浴槽を選ぶ際は、長さと深さに注意しましょう。一般的に跨ぎやすい理想的な高さは42cmと言われています。
浴槽には3タイプあり、バリアフリーに適していないのは「和式」の浴槽です。基本サイズは、長さ80~120cm・深さ60cm、深くひざを折り肩までしっかりつかって入浴できるのが特徴。注意すべきは、水圧による影響で身体が収縮し、呼吸運動や心臓の働きが活発になりやすい点。心臓病や高血圧、高齢者の方がいるご家庭では避けたほうがいいでしょう。
和式とは別に「洋式」の浴槽は浅く長い形状が特徴。基本サイズは、長さ120~180cm・深さ40cm、寝るような姿勢で入浴でき体に無理な圧迫をかけません。また、介護者を浴槽に入れる際に縁が低いので入れやすいというポイントもあります。難点は、肩までしっかりつかることが難しいため寒さを感じやすい点や、浅いので滑りやすいという点は注意が必要です。
バリアフリーに最もおすすめなのは、上記の2タイプの長所を合わせた「和洋折衷式」の浴槽。基本サイズは、長さ110~160cm・深さ45cm、肩までつかることができ、適当に体も伸ばすことが可能なため、身体に無理な圧迫をかけません。
気を付けるべきは転倒。高齢者が家の中で怪我をする確率の高い場所がお風呂場。床材は転倒防止のために、滑りにくい材質のものを選択しましょう。
介護者がいる場合は、シャンプー用の椅子や、浴槽の出入りに役立つ補助台なども設置すると便利でしょう。あるとないとでは、介護者はもちろん、介護を受ける自分の身体にかかる負担が大きく変わります。
介護者が自分で入浴できる状態であれば、上記の全てを新築時に工事する必要はありません。ただし、後々のリフォームで高額になりそうな箇所だけでも新築時に取り入れておくことがポイントです。例えば、出入り口の幅や浴槽のタイプは新築時に検討しておくといいでしょう。
続いては、玄関のバリアフリーのポイントについてご紹介します。(こちらから)
玄関で最も検討が必要なのは、玄関アプローチの段差問題を解決するスロープの設置と、靴を脱いで上がる部分の上がり框(かまち)の段差は身体に負担がかかる部分です。
玄関に入るまでのアプローチはどうしても段差ができてしまいますが、スロープを設置することで段差ではなく緩やかな昇り坂となるため効果的です。ただし計画段階で、車椅子などの介護者がいなければ重要度は下がりがちな点でもあります。しかし将来的なことも見据えて新築時にスロープまで作っておくべきかを家族でしっかり話し合っておきましょう。スロープを設置することは、介護者やご高齢の方だけではなく妊婦さんやお子様にとっても安心です。
なるべく緩やかな傾斜が理想的です。ただ、緩やかな傾斜にするためには広大なスペースが必要になるだけに、当然のことながら妥協が必要です。
スロープの傾斜角度は5%がマスト。スペースの兼ね合いで5%の傾斜がとれない場合でも8%の傾斜が限度です。もちろん、スペースの問題で理想通りの傾斜にならない場合もあります。
現状で車椅子利用者がいる場合には、スロープは玄関アプローチだけではなく、玄関内に設置することも検討しましょう。
バリアフリーを検討するなら、ドアは扉タイプではなく引き戸のタイプがおすすめです。
その理由は、扉は開けるときは一歩引いてから扉を開ける動作をします。この動作は身体が煽られてしまうことから、筋力の衰えた高齢者ではよろけてしまうこともあります。
引き戸であれば一歩引く動作がなくなるので、身体が煽られる心配がなくなります。
さらに、扉に限らず引き戸でも物や人が挟まれないようにドアクローザーを調整してドアの閉まるスピードをゆっくりにするなど工夫しましょう。
上がり框(かまち)は通常20~25cmくらいの物が多いのですが、バリアフリーの場合は11cm以下の低い段差が望ましいです。
20cmを超えると足を上げることが苦痛になります。11cm程度の段差は、腰掛けて『よっこらしょ』と立ち上がるにはギリギリの高さです。
介護者がいる場合は、その介護者の身長や利き腕によって設置個所を調整しましょう。介護者がいない場合でも、靴を履いたり脱いだりする際に手すりがあると楽に脱ぎ履きができるため、その点を考慮して上がり框の付近には手すりを設置すると便利です。
高齢者や介護者が自分で靴を脱ぎ履きしやすいように、腰掛用のベンチの設置が必要です。腰掛用に1人がけ用の小さなベンチを設置するだけでも、自分が介護の対象でなくても靴の脱ぎ履きがほんとうに楽になります。
続いては、トイレのバリアフリーのポイントについてご紹介します。(こちらから)
1日に何度も利用し、介護者も介助する側も非常に気をつかうのがトイレ。そのため、介護者が1人でも使えるトイレにすることが理想的です。
何より大切なのはトイレの位置。高齢者になればトイレを利用する頻度も高くなります。特に夜間に何度もトイレのために目を覚ます『頻尿』は、当事者にとってほんとうに辛いもの。
夜間は転倒のリスクも高いため、高齢者の居室・寝室から近い場所にトイレを設置することが重要。
寝室とトイレの位置関係が遠い間取りは避けるよう心がけましょう。
一番気をつけるポイントとしては、トイレの広さです。車椅子でも、介護者と介助者が2人同時に入ったとしても余裕のある広さを確保しましょう。
トイレ空間の広さと同様に、出入口も車椅子や2人同時に通っても余裕のある広さが理想的。介護者と介助者が出入りしやすいようにドアは引き戸タイプを選びましょう。また、出入り口を2ヶ所設けておくこともポイント。トイレで最も多いのが洗面所と隣り合う間取りです。通常は入口がトイレと洗面に1つずつあるため、2回ドアを開けて・閉めてという動作が必要ですが、トイレから洗面所側へ直結する出入口を設けることで、無駄な動きがなくなり介護者にとっても使いやすくなります。
ポイントは2つ設置することで、介護者と介助者の双方が使えるようにすること。
トイレを選ぶ際は、立ち座りをサポートしてくれる設備の採用も検討しましょう。便座が昇降するタイプのトイレは高齢者の足腰への負担軽減と自立をサポートするのに最適です。
トイレは冬場に冷んやりするので、居室との温度差が高い場所です。温度差によるヒートショックを予防するためにも、暖房機の導入は検討しましょう。
続いては、キッチンのバリアフリーのポイントについてご紹介します。(こちらから)
足腰を痛めたり、または年齢により弱ってくると、立ったままで調理するのは厳しいものです。そんな時、座ったまま調理できるキッチンを選ぶことも考えましょう。
キッチン製品の中には、高さを調整できるキッチンもあります。少しお値段は高くなりますが、調理をする人の高さに合わせることが可能なため、体への負担も減り、キッチンの使い勝手が改善すること間違いありません。
高齢になり座って調理をしたい時でも、高さを調整できるのは魅力。合わせて、シンクやコンロの下に車椅子の入るスペースを設けておくと、さらにキッチンの使い勝手は向上します。
キッチン本体だけではなく、収納棚なども現在はリモコン操作で昇降する商品もあります。特にキッチン上部に設置される吊戸棚は、高さによって非常に使いにくいものも多くありました。ものの出し入れがし難い棚は使わずに無駄スペースになることも。そなんな吊戸棚も可動式の収納棚にすることで、物の出し入れがしやすく使いやすい収納スペースが確保されます。
ただ、車椅子の入るスペースや吊戸棚の高さなど既製品ですべてマッチするキッチンを見つけるのは難しいことも多いようです。そんな時、少し金額は上がりますが「造作キッチン」の選択肢もあります。造作なので、キッチンの高さ・形状・材質に至るまでフルオーダーメイドのため、高齢になっても使い勝手のいいキッチンを創ることは可能です。
造作キッチンにするほどでもと考える方は、根本で出し入れに危険が伴う吊戸棚が必要ない程度まで調理器具を減らすことが最大のポイント。年に1度程度しか使わない大きく重い土鍋や大家族用ホットプレートなど、加齢によって食事の嗜好が変わるので、リフォームなどを検討される際には、思い切って処分。吊戸棚が不要になるような調理器具の量にすることが最も重要です。
またキッチンなどの水を使うスペースは、水に濡れても滑りにくい床材を採用することで転倒によるケガを防ぐことに繋がります。
続いては、洗面室のバリアフリーのポイントについてご紹介します。(こちらから)
車椅子生活になった時のことを想定して、座った状態で使いやすい高さにすることがポイントです。健康な大人には低いかも知れませんが、子供や高齢者には便利な洗面台になるでしょう。
ポイントは洗面下の収納スペースを取り払い、車椅子など座ったままでも洗面台に近づけるようにすること。収納スペースは別戸棚などを設けることも想定し、洗面スペースは新築時に広めに設定しておくことが望ましいでしょう。
続いては、廊下や階段でのバリアフリーのポイントについてご紹介します。(こちらから)
車椅子での生活を考え廊下の幅は広くすることがポイント。
標準仕様であれば幅は78cmが一般的ですが、この幅では車椅子が通るだけで一杯。手すりの設置や車椅子でのUターンを検討した場合は、より広めの廊下幅を確保することが必要です。
また、リフォームで廊下や階段などの幅を広げる工事は大変困難な上、それなりに費用がかかってしまいます。なるべく新築時に検討して広めの幅を確保することが望ましいでしょう。
女性は男性に比べ手も小さく握力も弱いため、なるべく握り幅が小さめの手摺りを設置するなどの工夫が必要です。
廊下は車椅子でも傷がつきにくい素材を採用し、階段は滑りにくい素材を採用するよう心がけましょう。お子様がいるご家庭であれば、滑りにくい階段などは安心できます。
段差は低く、踏み台スペースを広く確保することが理想的な階段です。もちろんかなりのスペースが必要となりますので、ご予算なども含めよく検討しましょう。
また直線的な形状より、U字型の形状の方が段差を緩やかにしやすく、途中で休憩できる工夫も盛り込みやすい点からおすすめです。万が一にも転倒した場合、被害を最小で済む可能性が高いのもU字型の階段です。
足元を照らす補助灯を設置するとさらに安心です。介助者も足元が明るいだけでサポートがしやすくなります。
続いては、気になるバリアフリー工事の価格についてご紹介します。(こちらから)
バリアフリー住宅は利用できる補助金が多くありますが、残念なことにそのほとんどがリフォームで新築に特化した補助金はありません。
しかし近年では、バリアフリー住宅が当然となっている場合もあり、標準仕様でバリアフリーに対応している会社も少なくありません。つまり、バリアフリーにするからといって新築時の坪単価が通常よりが高くなるとはいえません。もちろん依頼する建築会社によって仕様は異なりますので、どこまでが標準仕様に含まれているのか、バリアフリー設備はどんなものがあるのか事前に確認しておきましょう。
またバリアフリーに住宅を計画する際の費用感については、以下2つのポイントをおさえておきましょう。
もし希望するバリアフリー設備が標準仕様に含まれていないのであれば、他の建築会社と比較すること。また他の建築会社で標準仕様に入っている場合は、それを伝え交渉してみましょう。もちろん交渉する設備にもよりますが、他社では採用されているものであれば標準仕様に組み込んでくれる可能性も高くなることから交渉の余地はあります。
後々車椅子になった際のことを考慮して新築時に、廊下や階段の幅は通常より広めに設計しておくといいでしょう。また玄関や各部屋への入口なども、通り抜けがしやすいように幅を広めに確保することや、全ての出入り口を引き戸にしておくと便利でしょう。また玄関アプローチも現在は特に問題なくても少しの段差が歳を重ねると堪えることもあります。将来的にスロープを取り入れる際に面積が必要となる部分でもあり、簡単にリフォームできないため、それを考慮して新築時にある程度の広さを確保しておくことが望ましいでしょう。
これらの工事内容はリフォームする際に、大掛かりな工事になる場合が多く、予想以上に費用がかかります。工事費のかさむものは、新築時に対応しておくことをおすすめいたします。
ではここで、一般的なバリアフリーの工事価格を部位別に見てみましょう。
工事内容 | 工事価格 |
---|---|
玄関アプローチにスロープを設置 | 50万円~ |
バリアフリー対応お風呂の導入(滑りにくい床材、間口の広さ、お風呂自体の費用と設置費用含め) | 60万円/1箇所~ |
車椅子に対応した洗面台の導入 | 45万円/1箇所~ |
バリアフリー対応トイレの導入(滑りにくいクロス、間口の広さ、トイレ自体の費用と設置費用含め) | 40万円/1箇所~ |
手すりの取付け(手すり自体の代金+設置費含め) | 5万円/1本~ |
廊下の幅 900mm以上へ | 50万円~ |
滑り止めの設置 | 4,000円/1m~ |
引き戸の設置 | 4万円/1箇所~ |
上記は、あくまで参考の価格帯です。新築時にバリアフリーを意識した住まいを計画される場合は、建築会社にその旨を伝え、今すべき工事とリフォーム時に追加した方がいい工事なのかをきちんと精査できるよう提案してもらうことがポイント。
現在、介護を必要としている方がいらっしゃる場合でも、定型にはまった提案ではなく、介護者と介助者の意見をヒアリングしてそれをまとめた提案のできる建築会社は間違いありません。
続いては、新築以外にも、バリアフリーリフォームについてご紹介します。(こちらから)
誰しも高齢になると、筋力や感覚が衰えてきます。たとえ住み慣れた自宅でも、ちょっとした段につまづいたり普段のなにげない動作でもバランスを崩したり。
自分が高齢になってからの事故を予防し、もし、自分の介護が必要な状態になったときに介護を受ける自分、介護をする方それぞれが安心して暮らせるバリアフリーリフォームについて解説します。
1つでもチェック項目があると、要注意
国民生活センター(平成25年)の調査によると、65歳以上の高齢者の事故の8割近くが住宅内(77.1%)で発生しています。住宅内でこんなに怪我してしまうのか・・・というのが偽らざる気持ちです。
出典:国民生活センター「平成25年 医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-」「事故発生場所65歳以上の場合」
住宅内で最も怪我が多い場所は『リビング(45.0%)』。続いて『階段(18.7%)』・『キッチン・ダイニング(17.0%)』『玄関(5.2%)』と続きます。
出典:国民生活センター「平成25年 医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-」「事故発生場所詳細(屋内)65歳以上の場合」
高齢になると、家のなかで過ごす時間が増えてきますが、リビングでくつろいでいるときにちょっとした動作でつまづいてしまったりということは誰でもあること。高齢になると、つょっとつまづいた程度でもバランスを崩して転倒、そのまま大きな怪我となってしまう、ということは容易に想像できます。
さらに細かくみていくと、高齢者の怪我は転倒や転落、段差のつまづきなど歩行時に多く発生。当たり前のことですが、高齢になると誰しも筋力や感覚が衰えます。たとえ住み慣れた自宅でも、少しの段差でつまづいたりバランスを崩してしまいます。
つまり、家のなかで歩行しているときに起きる事故を予防するため、家のなかの危険を減らすために、【バリアフリーリフォーム】が有効と考えられるのです。
続いては、バリアフリーリフォームの3つのポイントをご紹介します。(こちらから)
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移動時のつまづきや転倒を減らすため、生活空間の床の段差をなくす。
視力の衰えによる夜間のつまづき、夜のトイレでつまづくほど辛いことはありません。夜間のつまづきを防ぐため、階段などに人感センサー付き照明の設置が有効です。
雨で濡れた玄関や浴室の床といった『滑りやすい床』を、滑りにくい素材に変更。
玄関などの段差のある部分をスロープにしたり、階段に手すりを設置。出入りはもちろん上下階への移動を楽にします。
浴室やトイレ、洗面所といった場所は、車いすや身体が不自由でも使いやすくなるよう、手すりの設置はもちろん、手すりの高さを調整して負担がかからないようにします。
車いすで家のなかに出たり入ったりする場合に備え、玄関や室内の出入り口を拡張します。ドアから引き戸に変更することも出入りがラクになるボイントのひとつです。
廊下やドアなどは、車いすが通りやすく、介護するときも容易に動けるよう幅を拡張します。
車いすでトイレを使うときに介護者が動きやすく、あわせて車いすの方向転換や切り返しができるスペースを確保します。
2階建、3階建の場合、上下階の移動が楽にできるよう可能であればホームエレベーターの設置も検討しましょう。
次では、最も気になるリフォーム工事の目安費用についてを簡単にご紹介します。(こちらから)
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ここでは、以下のリフォーム工事費用の目安が分かります。
・キッチンリフォーム
・浴室リフォーム(洗面所含め)
・玄関
・トイレリフォーム
・廊下リフォーム
バリアフリーのキッチンリフォームといっても、一般的なキッチンリフォームとそう大きく工事費用が変わるわけではありません。
ただ、コンロはガスコンロではなく、調理中でも火を使わず安全なIHクッキングヒーターをお勧めします。そのため、別途電気工事費用がかかったり各社ともバリアフリー対応のキッチンは極めて種類が少なく選択の幅がほぼないことなど、一般的なキッチンリフォームと比較して、システムキッチンの選択肢は非常に狭くなります。
バリアフリーリフォームの場合、ユニットバス(システムバス)は「洋式」の浴槽一択です。浴室のドアは引き戸がマスト。
脱衣所の空間は介護者が動きやすいように、広めの空間にしましょう。また、浴室暖房機など浴室や脱衣所を適温にする暖房器具も設置して、リビングとの温度差をなくすようにしましょう。
玄関の段差を解消する方法のひとつである『スロープ』の場合、あわせて手すりも設置すると車いすだけではなく、杖をついての歩行もだいぶ楽になります。
ひとりでスロープをのぼるときは手すりがないと、ほんとうにたいへん。
なお、スロープの傾斜角度は5%がマスト。スペースの兼ね合いで5%の傾斜がとれない場合でも8%の傾斜が限度です。
バリアフリーリフォームの場合、トイレの面積を増やすことが重要。
よって、トイレに行くまでの道のり、つまり間取り変更も伴うためトイレ単体のリフォーム費用はわかりにくくなることが大半です。
上記の目安価格は、トイレの面積を変えずに手すりなどの設置でバリアフリー化する概算になります。
・トイレをつかって出るときに、トイレに閉じ込められる事故は意外に多いそうです。トイレの出入り口は外からも鍵を開けられるようにすることが重要です。
・出入り口に段差がない吊り下げタイプの引き戸にすることも重要です。
・トイレにつける手すりも必要です。ドアを開閉するときに力が伝わりやすく転ぶ心配が減る縦の手すり。あわせて便器まで伝い歩きをするには横の手すりが必要です。
・トイレ内で転倒すると壁や便器に頭や身体をぶつけて大怪我をする可能性があります。滑りにくい床にすることが最も重要です。
・不自由な状態でトイレを使うと、思わぬかたちで床を汚してしまうことも。床を汚しても黄ばみなどが起こりにくくて掃除がしやすく、できれは抗菌加工された床材が良いでしょう。
バリアフリーに対応した、手すりつきの便器も市販されています。車いすに乗ったままでも使える便器もあるので、予算をみながら検討しましょう。
※もちろん、車いす対応便器は健常者でも使えます。
洗浄ボタンは便座に座ったままでも手が届きやすい場所に設置することはもちろん、文字が大きくてわかりやすく、操作しやすいデザインの洗浄ポタンを選びましょう。
廊下の幅は壁の手すりを持った伝い歩きでは78cm以上。車いすの場合は最低でも85cm以上が必要です。特に車いすは廊下の角を直角に曲がることが難しく、介護する側とさせる側が並んで歩ける幅が必要です。
トイレや浴室、寝室への移動で必ず通る場所なので、廊下幅を広げるリフォームは優先順位の高いリフォーム。
ただ、廊下幅を広げるリフォームの最大の難点は、リフォーム費用が高額になる点。周囲の居室の変更や廊下の長さによって変わりますが、リフォーム予算として100万円程度はみておきたいもの。
もうひとつ注意しておきたい点は、廊下の壁が耐力壁(家を支える壁)の場合、廊下幅の拡張はできません。
廊下幅の拡張ができないとしても、廊下幅の段差を解消するかさ上げやスロープ設置、敷居や戸枠の交換・撤去も大事なポイント。廊下幅の拡張よりコストがかからないのもメリットです。
廊下の床材は、寝室やトイレと同じように、滑りにくく転倒しても安全な素材を選びましょう。夜にトイレに行くとき転倒しないよう、手すりや足もとの照明も必須設備です。夜中にトイレで何度も目が覚める体験をするとしみじみわかりますがこれは体験すると本当に大事なことが実感できます。
続いては、リフォーム場所別の注意点をご紹介します(こちらから)
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バリアフリーリフォームの注意点は全般的には以下の点に注意しましょう。
高齢になったり身体が不自由になると、住まいのなかの小さな段差が大きな危険になります。段差解消はバリアフリーリフォームの基本ですが、滑りにくくしたりぶつかりそうな角の部分に丸みを持たせるといった工夫の積み重ねによって、家庭内の事故を減らすことができます。
玄関やトイレなどの手すりは、使う人の身体の状態や利用目的によって最適な位置や向きが変わります。
たとえば、段差を上り下りする場合、降りるときは横に配置しした手すりに手をついて体重をかけ、昇るときは縦に配置した手すりを引っ張るように身体を持ち上げると楽です。
高齢になると指先の力が弱くなります。つまり、つまんで回したり指先で引っ張る作業など、指先を使う作業が辛くなります。ドアや収納扉の取っ手などもいままでより大きくて力の入りやすいものにするなど、ユニバーサルデザインに配慮したものを選ぶことが大切です。
続いては、知っておくべきバリアフリーリフォームで使える減税制度や補助金をご紹介します。(こちらから)
金額/期間 | |
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現金またはローンを利用する場合 | 最大控除額60万円 |
控除対象となる工事費限度額 | 200万円(控除率:10%) |
期間 | 2025年12月31日まで(予定) |
前年以前3年以内にこの控除をうけていた場合、適用されません。
金額/期間 | |
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最大控除額 | 家屋の固定資産税額の1/3 |
限度面積 | 100m2相当分まで |
期間 | 2026年3月31日まで(予定) |
新築された年から10年以上経過した住宅(賃貸住宅部分は除く)で、要介護認定または要支援認定を受けている方か、所定の障害者、65歳以上の高齢者(工事完了の翌年の1月1日時点)が住んでいることが要件。他、所定のバリアフリー改修工事のいずれかの基準を満たす工事に該当していること、改修後の床面積が50㎡以上280㎡以下、国や自治体から補助金や給付金の交付を受けている場合は、これらの額を差し引いた金額になるなど、固定資産税の控除にあたっては、さまざまな要件が定められています。
介護保険の適用を受けている方がいる場合、手すりの設置や段差の解消などの工事費について最高20万円を限度に、費用の9割(支給額18万円)までを支給。
自治体によっては、介護保険制度の上限額を超える工事や、介護保険の対象外の工事についての補助金制度があります。 ※それぞれに要件・条件があります。
補助金などを活用して、上手にバリアフリーリフォームをできる会社をお探しのあなたへ、手間をかけずに複数社を比較できるリフォーム会社のご紹介サービスはいかがでしょうか。ご利用は無料。気になる方はこちらから▼
最後に、バリアフリー住宅を成功させる秘訣を簡単にご紹介します。(こちらから)
バリアフリー住宅で何より大切なことは、介護者に合わせた住宅をつくること。
ただ知りえた情報を頼りに、バリアフリー住宅を完成させてしまうと、いざという時に使いにくいバリアフリー要素が増え、無駄な手間がかかることになります。
その家に住む人によってバリアフリーの必要な箇所や設備は異なるからです。実際に使用する人の目線で考え、最適なバリアフリー住宅をつくることが何より大切ということです。
手すりの位置や太さ1つにしても、スロープの勾配にしても、実際に介護者の身体の状態に合わせて最適な設置場所があります。例えば、左半身不随の家族がいる場合に手すりを左側に付けても意味がないというのはお分かりになるかと思いますが、そのような細かい要素を1つ1つ解消してバリアフリー住宅は出来上がります。
もし現在、介護を受けているご家族がいるのであれば、その介護士やヘルパーさんへ意見を求めるのも成功への近道です。実際に介護を担当している人であれば、介護者の特徴も把握しているので、最適なアドバイスがもらえるはずです。
バリアフリー住宅で大事なのは、「手は出し過ぎず、目は離さず」です。少しでも自立して行動できるようサポートする要素は必ず残しておきましょう。全て介助者に任せてしまうと、どんどん負担も大きくなるため介護者の自立心を促すことが必要です。
何より介護者と介助者の気持ちや意見を優先しなければなりません。満足度の高いバリアフリー住宅にするためにもその点を忘れてはいけません。
バリアフリー住宅は通常の住宅より様々なことに注意が必要です。介護者と介助者、そして同居するご家族も快適に暮らすことのできる家が理想的。
そのような快適な住まいを実現するために一番重要なポイントは、依頼する建築会社にバリアフリー住宅での実績があるかどうか。依頼するタイミングに合わせて、最適な提案をしてくれる会社を選ぶためにも、バリアフリー住宅の実績を確認し、必ず1社ではなく3社ほどで比較・検討することをおすすめいたします。比較することで、プランの善し悪しや全体費用の比較はもちろん、標準仕様に含まれるバリアフリー設備の違いなども確認することができるので、納得して依頼することができるでしょう。
バリアフリー住宅を計画する際は、実績のある会社選びが重要です。
早坂淳一 保有資格:AFP(日本FP協会認定)/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/一般社団法人生命保険協会認定/シニア・ライフ・コンサルタント/
工務店支援プロジェクトに従事したのち、工務店にて営業を経験し、現在はハウスネットギャラリーを運営する第三者機関ネクスト・アイズ(株)にて、住宅コンサルタントとして活躍中。